公判で事実を争うと不利になりませんか?
人違いなのに電車の中で痴漢犯人にされて逮捕勾留された被告人が否認を通した結果,悪質と判断され罰金で終わらず公判請求されてしまったケースを考えてみましょう。
この被告人はやってもいない罪で逮捕勾留され,「やっていない」と真実を述べているのに警察官・検察官に信じてもらえず,否認していて悪質であるとして起訴されてしまいました。
その人の悔しさは計り知れません。
しかし,痴漢事件では,被告人を犯人であると勘違いした被害女性の公判での証言だけしか被告人を有罪とする証拠がない場合でも,被害女性の公判での証言が一貫していて断定的で揺るぎないものであったら,その証言が信用できると判断されて,有罪の判決を出されてしまうことが少なくありません。
しかも,裁判官によっては実刑にされるケースもないとはいえません。
第1回公判で,起訴事実を認めたらどうでしょうか。
そうしたら,その被告人は第1回公判後に保釈が認められるでしょうし,判決も確実に執行猶予がつくでしょう。
人によっては,逮捕後すぐの段階で,認めれば罰金ですぐに釈放されると捜査官からそそのかされて,やってもいない痴漢を認めてしまうこともあります。
その意味では,痴漢で逮捕されたら,否認して事実を争うことは,起訴前の段階でも公判段階でも不利になるといえなくもありません。
しかし,ここで考えて欲しいことは,やってもいないことを認めることはそれこそとても悔しいことです。
目先の不利の回避が遠い将来の取り返しのつかない不利につながることを知ってもらいたいと思います。
理不尽なことに屈服したという思いはその人の一生の心の傷になりかねません。
痴漢の前科がいつまでも残り,ご家族からの信頼もそれこそ失ってしまいます。
また,やってもいない痴漢行為の状況について自ら虚偽の供述をしなければなりません。
私たち弁護人は,被告人にされたみなさんの選択の困難さと苦しい胸の内をよく理解した上で,それでも,真実は一つであり,真実を述べ続けることこそが一生後悔しない道であることを繰り返し説明し,理解してもらうように努めています。
捜査権力により突然逮捕勾留され社会から隔離され弱い立場に追い込まれた被疑者・被告人の唯一の味方として,その人の正当な権利利益を擁護することを職責としている私たち弁護人は,それこそが正しい弁護活動であると信じているからです。